商社は、総合商社と専門商社と大きく2つに分けられます。ここでは総合商社(以降、商社とします)での業務内容について取り上げていきます。
商社の業務範囲は営業部門は「金属」「機械」「情報産業」「化学品」「エネルギー」「食料」「繊維物資」「不動産」「金融」、コーポレート部門は経理、人事、総務、広報、法務などがあります。
商社の仕事としては、国内・国際取引の仲介や、プロジェクトの取りまとめ、現地でインフラ整備を行い日系企業が進出しやすいようにする、といった潤滑剤のような役割も行っています。現在では商社自らが資金投資して、新規ビジネスを作りだすスタイルも出てきており、仲介業務と並行して事業投資を行うようになってきています。
ボーダーレスと言われる現代社会において国際取引をしている企業の種類はハードからソフトまで多岐にわたります。ハードであれば車・電化製品・鉄鋼品・インフラの整備・重機などの建機など、ソフトであればソフトウェアなどのIT産業、文化などと、例を挙げるとキリがないほど多種多様です。これらの製品が事業のメインである「モノ」づくりの企業は、企画・製造・流通など終始すべて自社で行っています。
それに対して商社は「モノ」を一切持ちません。
培ってきた人脈と情報網というネットワークの強さを生かして、取引の仲介を行ってきました。商社では「ヒト」が「モノ(=プロジェクト)」を生み出すのです。
分かりやすく言えば、「モノ」づくりの会社は「モノ」が収益の柱であるのに対して、商社は「ヒト」が収益の要になります。
プロジェクトの例をいくつか挙げてみると分かりやすいかもしれません。
数年前、「レアメタル」が大きく話題になっていた時期があります。
レアメタルとは重金属の事で、私たちの身の回りのあらゆる製品に使われています。数年前まではある国への依存度が非常に高かったのですが、ある事件をきっかけに、レアメタルの輸出制限がかかるようになり、日本の製造業が生産を一時中止せざるを得ない状況になりました。この時、レアメタルの輸入を商社が製造業に仲介していました。地政学的リスクが鮮明になり危機感をもった商社は方針を変更しました。供給元を1国集中から多方面に切替えました。結果として、製造業への地政学的リスクを減らすことに成功したのです。
最近では、新興国へ水道設備といったインフラ整備のプロジェクトがあります。
日本の水道水技術は世界でもトップレベルで技術を持っている事に加え、漏水率が非常に少ないのです。対して新興国では経済成長に伴い、水道水のインフラ整備の需要が高まっています。現地政府も日本企業の進出を求めていることもあり、日本のプラント大手などはプラント建設で培われた資材の調達・管理のノウハウを持っており、商社は海外拠点というネットワークと資金を提供することで、相互補完による日本企業の海外進出の後押しをしています。
商社はプロジェクトを遂行するために関係方面との折衝も行います。言葉・文化・慣習の違いがありますので、折衝業務も一筋縄でいかないこともあります。ここに商社が持つノウハウなどが発揮されます。
これらの現場で折衝するのは営業が中心になって行い、社内の各部門が表立って出ることはありません。しかし、通関手続きや予算面で問題ないか確認をするのが経理部門、最適な人材配置や教育を行うのが人事部門、コンプライアンスに違反していないかチェックをするのが法務部門、社外への広報を行ったりマスコミ対応するのが広報部門、といった感じで、プロジェクトに対して全社で支えています。
また、一度配属されるとずっとその部署という事はなく、バランス感覚を付ける意味で各部門に数年ごとでローテーションで配属されます。営業部門は国外、ときには地政学的リスクが大きい地域で仕事する場合もあり、現場で折衝するので、一般的には花形部門と思われがちですが、実際には体を張った仕事なのです。
そして商社で仕事をする上で最も欠かせないのが語学力と国際感覚と情報収集力です。
英語ができるのは当然の事であり、近年ではBRICSの台頭により第二外国語として、ポルトガル語(またはスペイン語)、ロシア語、中国語もできる人材が求められています。インドはヒンズー語ですが、英語が通じる事もあり、ヒンズー語はあまり求められません。将来はイスラム圏の台頭も予想されますので、アラビア語を理解する人材が求められる可能性もあるかもしれません。