
この記事は私が実際に銀行に勤務されている方にヒアリングをおこなって作成しています。銀行を志望する就活生の方の参考になれば幸いです。
ドラマ「半沢直樹」を見て金融業界に憧れをもった人、多いのではないでしょうか?しかし銀行勤めをしていた期間、あのような人間を見た記憶は筆者にはありません。筆者の周りは金融関係の仕事をしている人間が多いのですが、誰に聞いても「あれはない」という答えしか返ってきません。ドラマそのものは大変痛快で面白いのですが、半沢直樹を目指して銀行員になると、現実とドラマのギャップに打ちひしがれることになるでしょう。
ドラマ「半沢直樹」において、半沢直樹は悪党と手を結んだ上司をばっさばっさと斬っていますが、実際のところあのような悪党と結んだ融資は稟議が認可されず実行には至りません。ドラマで半沢は、あのような融資を実行可能とみなした審査部にも問題があると怒り狂っていましたが、まったくもってその通りです。あのような審査部が本当にあるのならば見てみたいくらいです。
しかし実際の現場において、融資が回収不可能になるケースはあります。それは融資先が悪党だとか、手を結んでいる悪い上司がいるだとか、そういう理由からではありません。「書類の貰い漏れ」から最悪の事態が起きるのです。
書類なんて適当に貰っておけばいいんじゃないの?貰い忘れたら、あとで貰ったらいいんじゃないの?それは甘い考えです。たとえば保証人をつけるべき融資に、保証人関連の書類を忘れたまま実行したとします。融資先の経営が悪化し、返済が滞った場合、保証人に対して返済を迫ろうとしても、書類がないのでそれができないのです。
土地を担保とする融資の場合も同じです。担保関連の書類がなければ、担保にするはずだった土地は担保になっておらず、銀行は大きな痛手をくらうのです。
銀行の全ては「書類があるかないか」です。逆に書類さえきちんと揃っていれば、どれだけ相手がごねようと「あなたサインしましたよね?この書類、納得したうえで融資希望したんですよね?」と言えるのです。
融資を完璧に実行するにあたり、必要な書類は一枚二枚ではありません。数十枚、あるいはそれ以上の書類が必要です。新入社員だからと言って「貰い忘れていました」では通りません。きちんと必要な書類は何なのか確認し、その書類が持つ意味を把握しておかなければなりません。
融資はそれぞれ必要な書類も違います。前回これがあれば大丈夫だったから、この案件もこれだけそろえば大丈夫、ではありません。その融資に必要な書類が何なのか、自分で必ず確認する必要があります。
この必要な書類はどんどん変化していきます。昨日まで必要でなかった書類を、今日からは貰わなければいけないなんていうケースもあります。
銀行の恐ろしいところはここであると筆者は考えます。つねに変化する上層部からの通達を読み、把握し、実行しなければいけない。ひとつのミスが大きな損失に繋がるという危機感を抱きながら業務にあたらなければいけない。このプレッシャーと常に戦い続けるのが銀行員の責務とも言えるでしょう。
ちなみにこの「必要な書類を貰い忘れた」場合、どうなると思いますか?
それは半沢直樹を見ているひとなら必ず耳にしたことのある「出向」が待っているのです。実際、莫大な額の融資を実行するにあたり、書類を貰い忘れて顧客に対しても迷惑をかけた挙句、ようやく実行したかと思えばその後書類の不備が見つかった営業マンは、都市部から過疎地へと飛びました。
上司が確認してから融資の実行をするから、新入社員はそんなに緊張することないんじゃない?そう思っている貴方、それは大いなる間違いです。
銀行はお金を動かすにあたり、最低でも2人の目を通します。新入社員が集めた融資書類を、上司に確認してもらい、上司がOKを出してからお金を動かすという流れです。しかし注意しなければいけないのが、「上司は何でも知っているわけではない」ということ。
上司なんだからなんでも知ってるでしょ?えらいひとなんでしょう?そう思いますよね。違うんです。
銀行は転勤が多く、色々な部署を回ります。そのため、多くのことを幅広く覚える必要があります。それゆえ、広く浅い知識しかない上司が多いのです。
その部署に根差した「お局様」になると、その部署に関する知識は豊富にあるのですが、異動が多い男性上司になると「いろいろな現場を知っているけれど、深く知っている現場はあまりない」ということが多々あります。これはもう仕方のないことなので上司を責めるのは辞めましょう。
上司を責める暇があるのなら「上司なんていなくても完璧な書類を揃えてみせる!」という意気込みを持ち、実際にそうなれるように努力しましょう。
半沢直樹のように「露骨にカッコいい銀行員」にはなれなくても、書類の貰い漏れによる銀行の危機を未然に防ぐ「裏方のカッコいい銀行員」になれる可能性は大いにありますよ。