
エントリーシート(以下、ES)で、ほぼ漏れなく訊かれる質問に、「志望動機」「学生時代の経験」「自己PR」の3つがあります。今回はそのうち、「学生時代の経験」についてお伝えいたします。
スケールの大きな経験は必要ない
まず学生時代の経験をまとめる上で、一番気になるのは次のことではないでしょうか。
「なにも凄い経験をしてないから、アピールできることがない」
たとえばサークルを立ち上げたり、起業したり、バックパッカーだったり、そのような、いわゆる「凄い経験」をしたことがないことを不安に感じる方は多いと思います。ですが、結論「スケールの大きな経験」は必要ありません。
例えば、過去に就活の相談に乗った学生の中には、普通のどこにでもある文化系サークルに所属していました。そこでは、代表などの役職には一度も就いたことはありません。アルバイトも学内の講義補助員(いわゆるチューター)をやっていた程度でした。(それ以外には駅売店の販売員や、署名活動の事務補助などの短期バイトだけでした)それでも、外資系コンサルファームや総合電機メーカーなど複数社から内定を頂けました。といった学生もいます。
たとえば、以下のようなことをアピールしていた学生がいました。
(参考までに、括弧内は現在の勤務先です)
- カフェのバイトの接客で意識していたこと(総合電機メーカー)
- ゼミの活動(日頃の講義、合宿、懇親会など)で意識していたこと(メガバンク)
- コンビニバイトの接客・レジ対応で意識していたこと(総合人材サービス会社)
コンビニバイトの学生は、お客様へのお釣りの渡し方やお客様を待たせない対応など、そうした日頃考えていたこと、意識していたことをアピールしていました。こうした世間的には「些細」だと考えられている経験でも、ちゃんとしたアピールになります。
自分が企業の戦力となれることをアピールする
学生時代の経験をアピールする上で気をつけて頂きたいのは、そのアピールが企業の求めるものと重なっている必要があるということです。端的には「あなたが企業の戦力となる」ことをアピールできていなければなりません。単に「能力があること」をアピールするだけでは不十分です。その能力を以て「応募先企業に貢献できる」ことが伝わらなければ採用担当者には響きません。
基本的に企業が採用選考時に重視するのは、
「会社の戦力となれるのか?」
「会社の価値観や社風とマッチしているのか?」
この2点です。
後者は主に志望理由で伝えるものとなります。学生時代の経験が絡むのは主に前者です。
つまり、学生時代の経験も企業分析と絡めて考える必要があります。企業が求める能力・素養が一体何なのか、それを把握しなければいけません。把握した上で、その能力・素養を自分が持っていることを伝えるのです。
企業研究の具体的なプロセスはここでは割愛しますが、主に企業のビジネスモデルを知ることで、求められている能力・素養が掴めます。
事業の仕組み、事業上の強み/弱み、事業を運営する上で大切にしていること・・・など、この辺りをキチンと押さえておくことが重要です。たとえば「私の能力は、事業の強みを伸ばすことに貢献できます」といった具合です。
経験別のアピールポイントと注意点
学生時代の経験には、様々なものがあると思います。アルバイトをしていた人も、していなかった人もいるでしょう。ひたすら学業に打ちこんだ人もいれば、サークルや学外活動に精を出した人もいるでしょう。
まずは、そうした活動別に、どういったことをアピールすれば良いのか見ていきたいと思います。
アルバイトでアピールできること
アルバイトは仕事の疑似体験です。そのため、日頃の仕事において気をつけていたことが充分アピールとなります。
アピールできること
このとき、時に大きなことを語る必要はありません。
「お店の売上げを2倍にした」「入社3ヶ月でアルバイトリーダーに昇進した」など、そうした経験がなくとも何の問題もありません。
たとえば「レジで待っている人がいれば、必ずすぐ対応に急いだ」など、そうした些細な気遣い(堅い言葉を使えば顧客志向)も充分アピールになります(もちろん、これ1つだけでは弱いですが)
注意点
アルバイトをアピールする場合、必ず「自発的に行ったこと」をアピールしましょう。アルバイトはイメージとして「社員から言われたことをやる」「マニュアルに従う」といった印象があります。ですが、そうした指示待ちの姿勢、マニュアル一辺倒の姿勢は、企業からは好まれません。よって、可能であれば、自発的に行動を起こした経験をアピールしましょう。
また同じ理由から、できれば「困難な状況を乗り越えた経験」をアピールできればなお良いです。たとえば「マニュアルになかった対応を求められたとき、自分なりに考えて切り抜けた経験」などです。そうした困難に直面した時に、その人自身の考え方や仕事に対する姿勢が最も見えます。
たとえば、接客業でクレームが起こったとしましょう。そのとき、
- 単に「上司に助けを求めた」だけの人
- お客様に落ち着いて頂いて事情を拝聴し、上司に「こうすれば良いと思う」と提案・確認、実行した人
この両者では、後者の学生の企業からの評価は高いでしょうが、前者の学生は評価されません。それは「自分なりに考えていないから」です。
その時々で必要なことを自分なりに考え、実行し、反省する、そうしたプロセスを経験できていないければ、どんな凄い経験であっても、あまり評価はされません。
サークル活動でアピールできること
多くの学生さんが、何らかのサークルに所属しているかと思います。基本的には文化系と体育会で大きく分かれますが、基本的に気をつけるべき点は同じです。
アピールできること
体育会は専用の新卒求人サイトがあるくらい、採用担当者からすると魅力ある人材です。上下関係を弁えており、自分の成長に足りない要素を考え、それを補う努力を積み、そして一つの目標に向かってチームで努力する・・・、形は違えど企業で働くことを疑似体験しています。
また、伝統ある体育会は周囲の目・評価も厳しく、その団体を引っ張っていくことは並大抵のことではありません。だからこそ、有名な体育会の学生には、専用の推薦枠が用意されているほどです。
文化系のサークルやイベント系のサークルは、そこまでストイックな団体は少ないと思います。ですが、アピール内容の基本は同じです。チームの中であなたがどのような能力を発揮してサークルに貢献してきたのか、そこを意識したアピールにしましょう。
一つの目標に向かってチームで努力することは、日本企業が重視する「協調性」や「コミュニケーション能力」を磨く上で非常に貴重な経験です。それらを軸にアピールを作ると良いでしょう。
注意点
サークルはチームで活動しているので、できればチームでの活動をアピールに据えましょう。サークル活動のアピールにも関わらず個人で取り組んだことだけを伝えていては、ともすれば「この学生は協調性がないのでは?」「ほかのメンバーと交流がなかったのかな?」と思われかねません。
個人としての実績を第一にアピールしたい場合、自己PRなど他の所で「協調性」「チームとしての活動」をアピールできるとベターです。
また、アルバイトと同様、チームで困難を乗り越えた経験をアピールできればなお良いです。困難を乗り越える上で自分がどのような役割を果たしたのか、メンバーとどう協力したのか、それは企業にとって非常に魅力的な経験です。
ゼミ・学業でアピールできること
サークルやアルバイトには目もくれず、ゼミや学業、研究に打ちこんできた学生もいるでしょう。企業からしますと経験の幅が狭く見えることもあり、採用選考では正直不利です。ただ、最近の新卒採用動向では、「学生が学業を蔑ろにしている」との批判も出ており、採用選考で学業成績を加味する比重を増やす企業も出てきています。
アピールできること
大抵の学業経験は、一人で取り組んできたことになると思います。フィールドワークや共同研究などであればアピールとして充分通用しますが、一人で黙々と研究するタイプの学業経験は正直、企業にとって魅力は小さいです。
逆に一つの課題に向けて研究してきた経験は、物事を深く考える力、論理的な思考を回す力など思考力をアピールする上では有効です。
注意点
学業・研究活動のみの学生にありがちなのが、「協調性が欠けている」「我が強そう」「視野が狭そう」といった印象を与えてしまいかねないアピールが多いことです。よく「先生」と呼ばれる人は、真偽は別としてネガティブな印象を持たれてしまうことがありますが、それと同じような感じになってしまいます。
そのため学業によるアピールでも、たとえばゼミ合宿など周囲と共同した経験を交えるなどするのが吉です。また普段の研究でも、同期や先輩に質問したり、談義したり、そうした経験があるかと思います。そうした「自発的に周囲と関係を持ち、研究に活かしていった経験」をアピールできると強いです。
ですが、相手が自分の専門的な話を理解してくれるとは限りません。理解されなければ、どれだけ素晴らしいアピールであっても意味はありません。
そのため正直なところ、理系の院生の専門職採用でもない限りは、アルバイトやサークルなど別の経験でアピールする方が無難です。どうしても学業でアピールしたい場合、研究・勉強内容そのものではなく、「どのように研究してきたのか?」「どのような点に注意して学んできたのか?」そうしたプロセスを中心にアピールすると良いでしょう。
ボランティア・学生団体でアピールできること
それ以外にも、ボランティア団体や学生団体などに所属していた学生もいるでしょう。
アピールできること
団体の活動内容によりますが、これらの団体は自発的に動かなければ仕事が手に入りません。自身の携わってきた活動において、自分なりに考えて動いた経験をアピールできれば問題ないでしょう。
注意点
これは学生によりますが、ESに次のような傾向が現れやすいので気をつけましょう。
- 話が抽象的で中身がない
たとえば、コミュニケーションやビジョン、ミッション、バリューといった横文字がES上に多く並び、結局何を言っているのか伝わってこないといったケースです。
- 声だけ大きい
自身が団体で活動した内容ではなく、団体が何を成し遂げたかをアピールしがちな学生も多いです。
いくら団体の素晴らしさを説かれても、そこに学生自身が貢献したのでなければアピールにはなりません。
特に学生団体は、サークル等とは違いやや特殊な活動のため、メンバーの中にも「自分は周りよりもできる」と思ってしまう学生もいるのが現実です。
ですが学生団体のアピールは、企業からしますと「またか……」と飽きるくらい見慣れたものです。つまり学生団体に所属していることは、体育会のような特別視されるほど珍しい経験ではありません。
それにも関わらず声だけ大きくなってしまうと、最悪「我が強い」と見られかねません。そのため、団体内で自分が困難にぶつかった経験、それを経てどう変わったのかをアピールできると良いでしょう。
PDCAを意識できればなお良い
かなり長くなりましたが、経験をアピールする上で大切なことをまとめると、以下の通りです。
- 会社の戦力となれる能力があることをアピールする
- 自分なりに考えて動いた経験であることをアピールする
特に後者に関係することですが、ここではPDCAを意識しておきましょう。PDCAについては、「自己PR」の対策を説明した記事に詳しいので、そちらをご参照下さい。
簡単に言えば、何かしら目的・目標があるとします。その際、「達成のために何が必要か考え、必要なことを実行し、その結果を反省し、次に活かす」という思考のサイクルが回せていることを「PDCAが回っている」と言います。このサイクルに準じた行動が取れているか否か、企業が見るのはそこです。
「直面した困難を、PDCAを回して、どうチームのメンバーと一緒に乗り越えていったのか?」
このようなアピールができていれば、問題ないでしょう。