
この記事は私が実際に商社に勤務されている方にヒアリングをおこなって作成しています。大手商社や4大商社を志望する就活生の方の参考になれば幸いです。
モノを流すだけ、ただそれだけではどこの商社でも同じになってしまいます。そうではなく「この人から買いたい」「この人にうちの商品を買ってほしい」とお客様に思っていただくことがまず何より大事なのではと思っています。
入社2年目のときでしたが、あるお客様からどうしても今日中に航空便で台湾のあるメーカーに届けてほしいモノがあるので助けてほしいという電話がありました。
こちらのお客様(仮にT社としましょう)は、その台湾のメーカー(こちらはC社にします)とは最初は全く取引がなく、また取引のノウハウもなく、わたしどもが間をもって商品の売買をしていたのですが、商社の運命なのでしょう、いつの間にかT社とC社は、商売のうちの何割かをわたしどもを通さず、自分たちだけで通関、船積みなどの手続きをするようになっていたのです。
T社とC社は初めは内緒にしていたのでしょうが、私どもで扱う荷物の量が次第に減っていったので、わたしたちも「ああ、そういうことか」と気づいたものでした。CとTとの間で順調に荷物が流れており、そろそろうちも外されるか??と思っていた矢先の電話だったのでとても驚いたことを覚えています。
T社の電話の詳しい内容によれば、「相手先C社から注文をもらった商品をすべて船に積んで出港待ちの状態なのに、C社の注文計画に誤りがあったのか、Cから大至急納品してほしいと言われてしまった。しかし急に言われてもT社の自社倉庫にもT社お国内取引先にも全く在庫がない。港のコンテナの中にはあることだけはわかっており、まだ船は出ていないので、その分から適量引っ張り出して航空便にしてほしい。
C社は超お得意様で絶対に納品を遅らせることはできないので何とか助けてほしい」という内容でした。電話の向こうのかなり焦った声に「わかりました!すぐに港へ向かって荷物を引っ張り出します!」で私は電話を切り、その後はすぐに通関業者、船積業者、港湾関係各署に連絡を入れ、コンテナを開けてもらうべく奔走しました。
すでに通関が終わって港を出るばかりの荷物です。途中でもう一度開けて引っ張り出すのは至難の業で、どの関係当局へ行ってもとにかくひたすら平謝りです。それでもなんとか指定のものを引きずり出した後はすぐに同時進行で航空便用に書類を書き換え空港へ向かいました。
その間、わたしが絶えずしたことは、常にT社の担当の方に10分おきくらいに現在の状況を連絡したことです。例えば自分が乗っている電車が急に止まってしまったという状況を思い出してみてください。
昔はしばらくの間乗客は放置されたものですが、今は何分かおきに車掌からのアナウンスが入ります。そう、情報が入るのと入らないのとでは、乗客の不安度が全く違うのです。
情報がないという状態は人を不安にさせ、あらゆる事象に対し懐疑的にさせます。私は日々の通勤電車でそれを痛感していましたので、「今、港に到着しました」「今、商品を確保しました」「今、空港に向かっています」「もうすぐ通関が終わって何時何分の飛行機に詰めそうです」現在の状況ごとに何度連絡をいれたことでしょうか。
今ならメールでやりとりするんでしょうね。当時はまだ電話が主流でした。とはいえ、T社の担当者は私の電話で本当に安心してくれていたのがわかりました。
無事にその日中に航空便に振り替えることができ、T社からは「本当にありがとうございました。助かりました。C社との商売、これからもよろしくお願いいたします」と言っていただいたとき、あ、商社の仕事ってこういうことなのだな、こういうところに商社のデリバリー業務がなくならない理由があるのだなと思いました。