
この記事は私が実際に保険会社に勤務されている方にヒアリングをおこなって作成しています。金融業界や保険会社を志望する就活生の方の参考になれば幸いです。
生命保険とは福沢諭吉がはじめて「翻訳」した言葉なのですが、保険会社では「死亡保険」と考えて会社を運営しています。そもそも、生命保険会社の仕組みとは「保険に加入した人たちがどんな年齢構成になっていて、どの年齢の人たちが1年間に、あるいは今後10年後、20年後どの位死亡するか」という「死亡率」で保険料(毎月払い、あるいは年払いなど)を定めています。人間の死亡率は、統計上生まれて間もなくがやや高く、1歳が一番低いことが分かっています。40代くらいまでは100人の内3人ほどしか死亡しませんので、この間に保険に加入すると、70代に加入するよりも「同じ商品」なら安く加入できるのです。
これは、まさに「理系」出身者が商品を設計している事がお分かりでしょうか。つまり生命保険会社には「数理部」があり、彼らの頭脳で会社の命運が決まる、といっても良いほどの仕事量をこなしています。この理系の人たちがもう一方で集うのが「投資部」です。これは保険会社が「お金」を扱うところだからこそ、できることなのです。よく、昨年度の国民年金の運用がプラス○パーセントだった…という新聞記事が出ますが、これはまさに「年金保険料」として国民が支払ったお金で「株や債権(国債、社債)」を買ったり、ファンド(株や債券などをパッケージにした商品)」を買ったりして、その運用益を出そうとしているわけです。これは、たとえは悪いですが、競馬の予想屋のようなものですが、やはり数学の知識が活かされる仕事です。実際、ある日本の生命保険会社の運用成績が毎年好成績を出しており、金融庁や財務省から「どんなロジックを使っているのか」と聞きに来ているほどなのです。
生命保険と聞くと「保険屋のおばちゃん」というイメージがあるのでは、と思います。ですが、今は男性がスーツをビシッと着て保険を売るようになっています。彼らはファイナンシャルプランナーと呼ばれますが、この人たちは「ほとんどが転職して保険業について」いるのです。新卒でこの仕事は絶対に務まりません。社会経験で垢が付き、白も黒も嗅ぎ分けた「脂ぎった」人たちの集団なのです。彼らは保険会社の人間であって、現実は「完全歩合制」の独立起業家です。ですから、彼らは保険を数多く売る事で、インセンティブ(保険を売ると、手数料が貰える)を稼ぎだし、中には億単位の収入を稼ぐ人もいるわけです。
この人たちは、はっきりいえば「売る事に徹する」人たちであって、学歴や職歴などは全く関係なく、稼いだ数字だけが全て、という社会に生きています。言ってみれば、野を駆け抜ける野生の馬のようなもの。ですが、本社の人事部、保険金部(死亡保険金を出金する)、広報部…といった人たちは一介の会社員です。そういった会社員が給料を取るには、売る人たちがいないといけないわけです。ですから、沢山保険を売って来る人たちは、保険会社の社長と同等の立場におり、経営会議で同じ机でやりとりをするのです。
逆に言えば、会社はこの暴れ馬のような人たちを上手く使いこなさないといけないのです。生命保険は「命に値段を掛ける」商品です。死んだら5,000万円必ずお客様の口座に振り込む約束をするのです。普段、トマトや牛肉をスーパーで100円、1,000円と買う人たちの家庭に、いきなり7,000万円を届けなければならないのです。また、保険を売る人たちは、会社の社長さんたちには1億円、5億円と高額の保険金が手に入る商品を売るのです。1億円の保険を売った場合に100万円のインセンティブが出るとしましょう。ある人たちは「この保険を今売って、2年後に解約させて、また入ってもらおう」と考えます。2年というのには理由があります(これは保険会社の内部での暗黙の了解ですが)。そして予定通り、社長さんに一旦解約させて、また新たに加入させます。そうすると、インセンティブがまた…そうです、入るわけです。
実際には、人の命に掛けるものですから、倫理的には違反しているのですが、なぜかこういうことをしている「売る人」たちがいて、それをギリギリのところで黙認しているのが、本社サイド、ということです。こういう人たちと一緒に生きていくのが保険業界、というわけです。